
ここのところ、よく話題に出てくる『背中を見せる』についてですが・・・
私は母よりも、父親に背中を見せてもらったように思います。
父とは若い頃には色々な確執があり、特に父のことが好きではなかったし、それどころか、苦手だった時期もありました。
でも、要所要所で見た父の姿は、強烈に印象に残っています。
父の背中
1つ目は、子供の頃、会社を経営していた父がよく言っていた言葉です。
『会社には40人の社員がいる。40人の社員には、それぞれ平均して4人の家族がいる。自分は160人分の責任を負っている』
父は常に、160人の人生を意識しながら、仕事をしていたのです。
2つ目は、私がまだ小学生の時に、少し離れた近所で火事が起きたときのこと。
バケツに水を汲んで、何度も何度も現場と自宅を往復したのです。
普段、歩いて5分くらいかかる距離を、あっという間に帰ってくるのを見て、ものすごいスピードで走っているんだ、人の為なのに、そこに手抜きは一切ないんだ、ということが、子供ながらに分かりました。
その時は、『お父さん、すごい』と感動したのでした。
二つあるバケツの一つに母が水を汲むと、すぐに父は帰ってきて走り去ります。
火事を消すことしか考えていないことは、子供ながらにわかりました。
もうひとつは、客先でトラブルが起きたとき、真夜中に、パジャマのまま駆け出していく父の姿は、強烈に印象に残っています。(これは、何度か目撃しました)
そんな風に、父から『仕事をするとはどういうことか』ということを、教わってきたようです。
仕事がプライベートより優先なのは、私にとっては当たり前の感覚です。(良い悪いではなく、ただそうだというだけです)
経営者のことは社員には見えない
そして、高校生になって、父の会社でアルバイトをしていたとき、社員さんたちがこう言っているのを耳にしたのです。
『社長はいいよな、いつも働いているのは俺たちで、社長はゴルフだ飲み会だと、遊んでばっかり。』
『働いているのは俺たちなのに、俺たちよりたくさんもらっている。』
それを耳にして、高校生の私は、驚きながら思います。
『この人達は、自分たちが見えないところで父がやっていることを知らないし、気づくこともできないんだ』
ゴルフやお酒の場が仕事を得るのに必要なことも社員さん達には分からなくて、遊んでいるようにしか見えない。
そして、真夜中に何かあれば、ひとりで飛び出していく姿も、お金が回らないときに頭を抱えている姿も、社員さん達は見たことがないのです。
そして、父は、その批判を甘んじて受け入れているということを知ったのです。
大事なことを学んだので、あの時、父の会社でアルバイトをしておいて良かったと、本当に思います。
自分は経営者になど、なりたくなかった
私は高校生の頃までに、経営者のこと、そして社員は経営者のことを理解できないこと、また、経営者とはそういう理不尽に耐える存在だということも、父を通して学んだのでした。
なので、ずっと、自分が経営者になど、なりたくはありませんでした。
ひとりでリスクを負って社員達のためにがんばっても、それが報われない姿を、見ていたからです。
常識が違うところにいる人の事は、人は全く分からないんだ・・・
多少みんなより収入が多かったとしても、まるっきり割に合いません。
なんでそんな損や苦労を、経営者だけが被らなきゃならないの?
そんなのまっぴらって思っていたのです。
でも、私は経営者になりました。
それは、自分が世の中を見るうちに、周りの人からどう思われるかなんて小さなことよりも、もっと大きな視点で物事を見られるようになったからです。
やりたいことがある、その立場にいなければできないことがある、そして、誰かが仕事を作らなければ、ほとんどの人は食べて行けない・・・
人に仕事を提供できるということは、ものすごい社会貢献だと思いました。
でも、それを形にするのが簡単ではないことも、尋常でない努力が必要なこともあらかじめ知っています。
それが前もって分かっていただけでも、意味があったのだろうと思います。
知っていて良かったと思う
経営者は、人からどう思われるかなんて気にしてはできないことや、並外れた努力が必要だと知っていたおかげで、始めるに当たって覚悟ができていたからです。
なので、人から見えないところで、当たり前に、ものすごい努力ができるわけです。
若い頃は父のことは決して好きではなかったし、しばらく理解もできなかったけど、背中を通して見せられたことは、時間をかけて、自分のものになっていくのだなぁと、実感します。
私も、人に背中を見せることがあると思います。
その時には理解されなかったり、誤解されたり、恨まれたりもするかもしれない。
でも、いつの日か、その人の血肉になれば、そのときやっと、父から私が受け取ったものを還元できるし、大きな視点で見れば、それでいいのだと思っています。
miwako
いつも楽しみに拝見しております。
素晴らしいコラムでした(なぜか上から目線ですね、すみません)。何かストンと来るものがありました。
そらまめ 投稿者
いつも読んで下さり、ありがとうございます。
私の書く文章が、何かのきっかけになれば、こんな嬉しいことはありません。
お褒めいただいて、とても励みになります。
ちこ
いつも楽しみに読んでいます。
とてもこころに残る記事でした。
その立場でないと見えない景色で、立ち位置がかわれば、
見え方も、言動も変わりますよね。
責任ある程、孤独ななかでの仕事に。
でも
仕事が出来る幸せ
今の時代、かみしめて毎日過ごしていかなきゃ、です。
からだを労りながら。
そらまめ 投稿者
コメントありがとうございます。
ホント、自分の知らない世界のことって、想像すら出来ないんだということを、早いうちに知ることができて良かったと思います。
仕事、大変だけど、すっごく楽しいんですよね。
体はキツいですけど^^;
にぎこ
感動しました!
責任感を持って生きる姿勢というのは、背中を見せるということなのですかね
背中を見せてもらった時にきちんと気付ける自分でいたいものです
そらまめ 投稿者
親が一生懸命生きている姿を見て、子供も一生懸命生きようとするんだと思います。
そのときにはなかなか分からないんですよね。
というより、『背中を見せる』は生き様だから、見せようとして見せられるものでもなく、日々一生懸命生きていると、相手は要所要所で勝手に受け取っているということなのだと思います。