昔(10年くらい前かな)、今よりもっと自分のことを知らないときに、そらちゃんに言われた言葉だ。
そら 「りえちん、自分に矢印が向いているよ。」
そらちゃんの言葉は、ときどき難しいことがあるけれど、これは直ぐに分かった。
自分のことしか見えてない(考えていない)、ということだ。
自分に矢印が向いていると、目の前で起きている物事を、ちゃんと受け止めることが出来ず、行動も自分本意になりがちだ。
5年くらい前に、こんなことがあった。
出勤途中のことだ。
初老の男性が、道ばたにつっぷして倒れていた。
起き上がろうとしても中々起き上がれずにいた男性をみて、私は直ぐに駆け寄っていった。
倒れた拍子に頭を打ったのだろう、おでこから血がにじんでいた。
病院に定期検査に行く途中だったという。
病院は直ぐそこだったので、職員さんが来てくれないかなと思って電話をかけたが、それは出来無いと言われた。
なので、救急車を呼ぼうとしたら、歩くから大丈夫と男性が言う。
男性を助けようと、若い男の子も手伝ってくれた。
近くの花屋さんも心配そうに様子をうかがっていた。
やっとの思いで男性を立たせ、私の肩に男性の手をかけて病院まで歩いた。
病院に着くまでの間、男性はぶつぶつとある言葉を繰り返し言っていた。
「何か悪いことをしたのかな。何でこんなことになったのかな。」
転んで動けなくなった自分を嘆き、険しい顔をしていた。
ぶつぶつ話す男性に、「誰でも転びます。大きな怪我じゃなくて良かったですね。」と話しかけたが、聞こえていないようすだった。
病院に着き、受付の人に話をして、バトンタッチして私は急いで仕事に向かった。
そのとき、ふと思ったのだ。
「あの男性、私の顔を一度も見なかったな。」
男性は、自分に矢印が向いていたので、私の顔を見る余裕もなかったのだ。
自分の失態を恥じて、状況の把握が出来ていなかった。
とてもプライドの高い人なのだろうと、後から思った。
あの出来事は、一瞬のことだったが、私自身もあのときの男性のように、自分の失態や失敗にだけ目が行き、周りの人たちの顔や状況を正しく把握していないことがある。
自分に矢印が向かないよう、自分の心に注意深くいたいと思うのだった。