ある親子のはなし
知り合いに、自分の子供が小さい頃、我儘を絶対に聞かなかったという人がいる。
スーパーなどで、通路に転がって、ほしいものを買ってもらおうとしている子供を見かけるが、あのような時に子供の言うことを聞いてしまうと、子供はそうすれば買ってもらえるのだと学習して、いつもやるようになる。
なので、絶対に聞かないというのだ。
おそらく、全ての我儘を封じたことだろう。
子供の頃、その子はいわゆる『いい子』だった。
勉強もちゃんとするし、親の言うことをよく聞き、おまけに可愛い自慢の息子だ。
ところが、思春期を超えた頃から様子が変わってきた。
学校には行くものの、自宅では部屋に引きこもり、親と全く口を利かなくなった。
そして大人になるにつれ、精神的に不安定になってしまったのである。
ある日、その親と一緒にいるときに、お店で転がってわめき散らす子供に従ってしまう親子に遭遇した。
それを見て、その人はこう言った。
「あれじゃぁダメよ、一度言うこと聞いてしまったら、子供はずっとワガママ言うようになるのよ。」
その時、『ハッ』とした顔をした。
そういえば、自分の息子がまともな大人になっていないけど、それにはこれが関係していたのでは?と気付いた瞬間である。
私はそれを見ながら、
『天(自然の法則)は、時間をかけて、自分のやってきたことを教えるのだなぁ。』
と思ったのである。

未熟な時代に子どもを育てる親
子供の我儘を聞いていたら、どんどん我儘を押し通す子供になる。
これは自然の法則だ。
しかし、子供が常に我儘を封じられたら、意思表示をしても仕方ないと学習して、無気力な子供になる。
本来エネルギッシュな子供だったら、欲求を常に封じられれば、それはやがて歪んだ形で表出することになるだろうし、外に出せない場合は、自分自身の心や身体を破壊する。
これも自然の法則だ。
つまり、ワガママ放題にしてもいけないし、押さえ込みすぎてもいけない。
そこには絶妙なさじ加減が必要で、そのさじ加減は、その子によって全く違う。
小さい子供を育てるとき、親は大概20代~30代前半で、親もまだ未熟な時代である。
その頃に、そんな難しいさじ加減が、うまく使えるわけがない。
つまり、親は、間違え、失敗するのが普通ということだ。
中には、たまたまうまく行く人もいるだろう。
しかし、それは当たり前ではなく、さじ加減と子供の性質が一致した、ラッキーの結果だ。
親の子育ての失敗が 子に伸びしろを与える
さて、親は子育てに失敗するのが自然だということが、なんとなく分かるだろうか。
子供は、その失敗を受けてさらに人生を続けるわけだが、子供には、親から離れた後に、親の失敗を超える力が備わっている。
親が子育てに失敗していると、子供はどこかに生きにくさを抱えるわけだが、親から離れて社会の中で生き、その生きにくさにひとつひとつ向き合うことで、人間的に成長できるというわけだ。

人は、苦労しないと成長しない。
つまり、親の失敗により、子供は人間的な伸びしろをたくさん与えられているということである。
それを活かせるかどうかは、本人次第。
親は、失敗して伸びしろを与えることが役割で、それ以降はもう、子供の人生に介入する余地はない。
あとはただ、子供の超える力を信じて離れていれば良いのである。
2019年05月11日